月収80万円(年収960万円)「ひとり美容室」経営の目標客単価設定
インフレが深刻化する中、賃上げの議論が活発化してきている世の中だが、そもそも平均年収が少ない美容室に於いて、一人美容室で高年収を得るためにはどうすれば良いのかを将来を見通して試算してみました。試算にあたって多少大雑把なところもありますが、この数値には、私的な捉え方によっての数値など含まれておらず、どなたが計算しても同じ数値になるということをご理解頂きたく存じます。
美容業界もスタッフ不足が深刻化しており益々「ひとり美容室」の増加が見込まれます。これから独立する方も、長年美容室を営んでいる方も、スタッフ不足(人手不足)によって「ひとり美容室」での運営を余儀なくされる可能性を大い含んでいます。しかし「ひとり美容室」でもしっかり収入を得ていかないと先のない将来になり兼ねません。転ばぬ先の杖として、知っておくべき数値かと思い記載しました。僅かでも参考になって頂ければ幸いです。
「収入を増やそう!と頑張る前に(スタート前に)もう既に失策していないか?」
そこでいくらの売上や利益が必要なのかと計算に入る前に、今の社会情勢に沿った(条件や規制)ものでなければなりません。この社会情勢が今回試算する理由に至ったものであります。ただ、がむしゃらに働いた時代は終わりを告げています。「ひとり美容室」であっても「家族」や「将来老いる自分」がいる訳ですから、それも考慮した頑張りでないとただ無造作に働いただけでは「自分の将来」も「家族」も犠牲にしてしまいます。自分自身の「働き方改革」が必要かと思います。
必要条件 社会情勢に沿った勤務体制・家族がいることも配慮・自分自身の「働き方改革」
- 勤務時間8時間 ( 実労働時間 7時間 )
- 週休2日間
- 年次有給休暇 20日間
- 月平均勤務数20日間 ※ 104日(完全週休2日制の年間休日総数)+有給休暇20日= 年間124日の休暇。365-124=241日勤務/年 月平均勤務日数20日
- 厚生年金加入+社会保険等一般的な法定福利加入
- 収入 月給80万円 年収960万円
以上を条件としましたが、収入以外は今の世間一般の暮らしなのです。昔ほど勤務時間を伸ばす・休みを減らすなどできない時代。 選択肢は少なくなった中で、65歳定年でハサミを置くとして考えた計算です。
因みに
ひと月の収入80万(年収960万円)は、手取りに換算すると大雑把ですが、社会保険料・所得税・市民税などと一般的なものを加えると手取り額約58万円。額面の約75~85%が手取りとして入ってきますが、扶養家族などによっても違いは発生します。( 地域によっても多少違いはあります) また、「ひとり美容室」の場合、法人化しないと社会保険に加入できないこともあり、法人化し給与として計算。因みに2021年の日本の給与所得者数は5,270万人、平均給与は、443万円とのこと。大手企業や公務員などには高額な定年退職金がそのあと用意されている。それを考えると美容師の場合、退職金がない分平均年収を上げていかないと同等にはならない。
厚生労働省の「令和2年度(2020)賃金構造基本統計調査」によると、美容師の平均月収は約26万9,400円で、年間賞与その他特別給は約6万5,500円でした。年収換算すると、約329万8,300円です
ただし、あくまで正社員で雇用されている場合です。
参考資料 : 子供ひとりを大学に行かせる費用(大学生にかかる教育費の総額)
日本政策金融公庫の2019年度「教育費負担の実態調査結果」によると、大学卒業までの教育費用は国公立で平均4,994,000円、私立大学文系で平均7,170,000円、私立大学理系で平均8,217,000円となっています。
老後の人生も考えないといけない「老いは100%必ずくる」
上記の社会情勢に沿った労働基準に合わせた営業体制を作らないと一般的な暮らしとは言えない。ましてや美容師の場合、体が資本であり、無理な勤務体制を取りすぎるとその返りで体を壊してしまっては、元も子もないことになってしまいます。また、必ず「老い」は来るので老後の人生も考えないといけない。
65歳定年として、ハサミを置いたあと90歳まで仮に生きた場合、必要な資金はいくらになるかと言うと月額20万円の必要生活費として、「20万円×12ヶ月(1年)=240万円 240万円×25年間=6000万円」合計6000万円必要となる。ここから厚生年金・国民年金など受け取れる額を差し引くが、収めた年数や金額によって個人差があるので、ここでは表記しませんが高額な金額が必要になる方が多いかと思います。その為の貯えも備えないといけない事実があります。
必要客単価の計算
これらをベースに客単価を計算しますと、
まず一人の美容師が出来る施術数(接客数) お客様ひとり平均90分の施術時間とした場合
実労7時間(420分)÷90分=4.67人 7時間100%稼働の場合なので、100%稼働が一生涯続くことは肉体的に無理がある為、70%稼働とすると3.26名となる。月間営業日数20日として、20×3.26名=65.2名が1ヶ月に出来る施術数。稼働率80%にした場合、74.72名/月 稼働率90% 84名/月となります。
ここで収益性を考えた上で必要な売上を大筋ですが出してみます。(今回抽出しようとしている数字は、客単価ですので、収益構造などは少し大雑把な数値ですのでご容赦ください。)
美容室「売上対人件費比率」※売上に対して占める人件費(法定福利費含む) の割合が、50%以内であれば大筋、黒字企業ですのでこれを目安とします。※黒字美容室の一般的な収益構造
美容室「売上対人件費比率」内訳
売上 100%
原価 10%・販売管理費計 87%・営業利益 3%
人件費(法定福利費含む) 50%
水道光熱費 3%
広告宣伝費 7%
通信費 2%
地代家賃 10%
その他経費 15%
条件に沿った= 月給80万円の場合 =の試算
給与80万円と社会保険料など会社負担金おおよそ(16%) 12万8千円なので、合計は92万8千円の人件費となります。 ※会社人件費に相当
92万8千円を売上対人件費比率50%とした場合、必要売上は185万6千円(税別)となります。
185万6千円÷1ヶ月の営業日数20日= 1日の必要売上 / 9万2800円(税別) (税込)にすると10万2080円
さて、ここで客単価を出してみますが、
185万6千円 ÷ 1ヶ月の施術客数 65.2名(稼働70%)= 客単価 2万8466円(税抜)
稼働90%の場合なら、185万6千円 ÷ 1ヶ月の施術客数84名= 客単価 2万2095円(税抜)
月収80万円(年収960万円)「ひとり美容室」経営の目標客単価は、2万8466円(税抜)・3万1312円(税込)
以上の結果となりました。この収入レベルを考えると上記の営業体制では一般的にとても追いつかないことが分かります。経営体制そのものを変えていくことが必要であることが理解できます。そうしないとこのレベルの生活環境は作れないということです。根本的な経営改善が必要であるということです。※ しかし、現実的に平均客単価2万円超 平均客数1日3~4名を行っている方は私の周りでもいらっしゃいますので、不可能なことではないかと思います。
これを半分の月収40万円に変えると
給与40万円と社会保険料など会社負担金おおよそ (16%) 6万4千円の合計で46万4千円の人件費となります。
46万4千円を売上対人件費比率50%とした場合、必要売上は92万8千円となります。
92万8千円÷1ヶ月の営業日数20日= 1日の必要売上 4万6400円(税別) (税込)にすると5万1040円
さらに客単価にしてみると
92万8千円 ÷ 1ヶ月の施術客数65.2名(稼働70%)= 客単価 1万4233円(税抜)
稼働90%の場合、92万8千円 ÷ 1ヶ月の施術客数84名= 客単価 1万1047円(税抜)
月収40万円(年収480万円)「ひとり美容室」経営の目標客単価は、1万4233円(税抜)・1万5656円(税込)
この客単価となります。 因みに立地により差はありますが、全国の美容室の平均客単価は6,000円前後とされています。本来、美容室の単価は低すぎる傾向にありますが、固定概念を捨て発想そのものを変える必要があるかと思います。
社会情勢に沿った勤務時間8時間・週休2日・年次休暇20日・厚生年金加入+社会保険等一般的な法定福利加入などに沿った勤務体制の場合、絶対にこの客単価が必要なのだと理解できるはずです。その為の仕掛けをしっかりする必要があるということです。
それを10年も20年も前の客単価と変わらない状況で営業していては、今の社会情勢にあった暮らしは絶対に無理なものになってしまいます。
ここで気づきに至ったかと思いますが、「勤務時間」も「休暇」も社会情勢に最低沿ったものですし、「厚生年金等」は自身の老後の為には絶対に外せないものなのです。そうするとそれらは固定化されていますので、一人当たりの施術時間短縮して、①1日当たりの客数を増やすか、②客単価を上昇させるしかないと理解できるのです。上記必要条件に沿った営業体制を行うのであれば、試算した客単価が必ず必要となり、誰が計算しても同じ必要な客単価ということになるのです。もしくは、①の1日当たりの客数を増やす(規定営業時間内に於いて)になるのです。
その中で施術時間短縮でもお客様に満足度をアップさせる方法論や客単価を上げてもお客様に満足して頂ける付加価値を見出すことしかないということが理解できるのです。
※多数のスタッフがいるサロンでは、技術の均等化が難しいために高料金の設定がなかなか厳しい部分もありますが、「ひとり美容室」の場合、ひとりだから出来る一定レベルの技術力を保持していますので、高料金設定も比較的しやすい一面もあります。
これから時代は益々、社会保障がピックアップされていきますので、より勤務時間・休日・福利厚生などの年金等などに対しての意識が強まっていくことが想像できます。
より客単価に対しての意識が重要となりますが、客単価と言うと料金と連想しますが、時間当たりの客単価も同様な捉え方ができることがよく考えるとご理解できるかと思います。
時間当たりの客単価増加は、施術時間短縮による客数増加×客単価によって増加を見込めます。
また、客単価は料金値上げだけではなく付加価値を加えることで増加を見込めます。
方法論は、個々のサロンによって諸条件の違いがあるので、一概に「この方法だ!」とは言い切れませんが、よく自店の状況を把握すると様々な方法論が見つかるかと思います。あとは実践するのみです。
これらについては、また改めて掲載させて頂きたく存じます。
最後にこれらの計算から感じたことととして、本来、美容業界(美容室)が全体的にこの方向に進んでいけば業界に従事する方々の安定した生活や将来も得られ、業界そのものも人気の業界になるのではないかと感じ取った次第です。
以上、事業計画作成時や経営改善など、なにかの「気づき」の参考になって頂ければ幸いです。